トラック2024年問題は、運送業界に大きな影響を与える重要な課題です。
働き方改革関連法の一環として導入された労働時間規制により、人手不足や運送コストの上昇が懸念されています。
この記事では、2024年問題の背景や影響、そして企業が取るべき対策について詳しく解説します。
運送業や物流に関わる方々にとって、今後の対策の参考になる情報を提供していますので、ぜひ最後までお読みください。
1.トラック2024年問題とは?
トラック2024年問題とは、2024年4月から施行された「自動車運転業務における時間外労働の上限規制」によって生じる運送業界の課題です。
具体的には、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで、輸送能力の不足が懸念されています。
国土交通省の試算によると、対策を講じない場合、2024年には営業用トラックの輸送能力が14.2%不足する可能性があるとされています。
この問題は、単に運送事業者だけでなく、荷主企業や一般消費者にも大きな影響を与えかねません。
例えば、必要な時に荷物が届かない、輸送を断られる、当日・翌日配達のサービスが受けられなくなるなどの事態が起こりうると考えられています。
この課題に対応するためには、荷主と運送事業者が協力して、長時間労働の是正や物流の効率化に取り組むことが必要不可欠です。
2.トラック2024年問題の背景
トラック2024年問題は、運送業界が長年抱えてきた構造的な課題が労働時間規制の導入により一気に表面化したものです。
この問題の背景には、長時間労働の常態化、物流量の急増、そして深刻化する人手不足という3つの要因があります。
2-1長時間労働の実態
トラックドライバーの労働時間は、他の産業に比べて長い傾向があります。
厚生労働省の資料「労働時間やメンタルヘルス対策等の状況」によると、運輸業従事者の平均年間労働時間は1,980時間です。
全産業の平均は約1,633時間であるのに対し、それを約20%の400時間近くも上回っているのが実態です。
トラックドライバーの長時間労働の背景には、荷主都合による待機時間や渋滞等による予定外の拘束時間が大きく影響しています。
例えば、荷役作業や荷主の指定する時間までの待機、交通渋滞による遅延などが、予定外の拘束時間を生み出しています。
これらの要因により、労働時間が長くなる状況が生まれているのです。
このような長時間労働の実態は、運送業界全体の課題となっており、2024年問題への対応を考える上で重要な背景となっています。
2-2物 流量の急増化
2024年問題の背景には、トラックドライバーの長時間労働に加え、Eコマース市場(通販)の急成長による物流量の急増があります。
Eコマースの普及により、消費者は簡単に商品を購入できるようになり、配送件数が増加しました。これに伴い、物流業界全体の貨物輸送量も増加しています。
Eコマースでは小口配送が増加傾向にあり、配送件数の増加と配送ルートの最適化の難しさから、物流コストの増加や物流効率の低下を招きやすくなっています。
さらに、当日配送や時間指定配送といった消費者ニーズに応えるサービスが求められるようになったため、柔軟な配送体制が必要不可欠です。
しかし、労働時間規制が厳しくなる中で、これらの課題に対応することは容易ではありません。
2-3深 刻化する人手不足
運送業界では、高齢化と若手ドライバーの採用難が深刻化しています。現在、ドライバーの平均年齢は47歳を超えており、特に高齢化が進んでいる業界の一つです。
これに加えて、若手のドライバーが不足していることが大きな課題となっています。
若者の間では、トラックドライバーの長時間労働や不規則な勤務時間が敬遠されがちで、採用が困難な状況です。
この人手不足は、2024年問題の影響でさらに悪化する可能性があります。特に時間外労働時間の上限規制が導入されることで、
運送事業者はこれまで以上に労働力の確保が困難になると考えられています。
全日本トラック協会も、この問題に対する対策を検討しています。
これに対応するため、運送業界では、労働条件の改善や自動化技術の導入といった業務の見直しが必要です。
3.2024年4月からの労働時間規制の具体的内容
2024年4月から、トラックドライバーに対する労働時間の上限規制が施行されました。
これに先立ち、2022年12月に改善基準告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)が改正され、2024年4月1日から適用されています。
労働者の時間外労働に関する規則は、元々2019年4月に施行されていましたが、物流・運送・医療・建設業界などに対しては、5年間の猶予期間が設けられていました。
2024年3月に猶予期間が終了したことにより、運送事業者は年間960時間の時間外労働制限を厳守する必要があり、従来の長時間労働の是正が求められます。
改正された告示では、ドライバーの拘束時間の上限短縮や休息時間の延長など、より厳格な基準が設けられました。
この規制は、運送業界全体に大きな影響を与え、業務の見直しや効率化が急務となっています。
3-1時 間外労働の上限規制
2024年問題における重要なポイントの一つが、トラックドライバーの時間外労働時間の上限規制です。2024年4月から、運送事業者に対する労働時間規制がさらに強化され、年間の時間外労働は960時間までと制限されました。これは運送業界における長時間労働の是正を目的としています。
この規制は、ドライバーの過度な労働時間を削減し、労働環境の改善を図るものです。これまで運送業界では、特に長時間労働が問題視されており、従来の規制では十分に対応できていない状況がありました。荷主都合による待機時間や配送遅延が頻発し、その結果として労働時間が増大していたため、今回の規制強化が導入されました。
一方で、この960時間上限規制は、運送事業者に大きな負担をもたらす可能性があります。人手不足が深刻化している状況下で、労働時間の削減はさらなる輸送効率の低下や配送遅延を引き起こすリスクがあります。そのため、業務の見直しや柔軟な労働システムの導入が必要不可欠です。
3-2 1 日の拘束時間の制限
2024年4月からの労働時間規制では、1日の拘束時間にも制限が設けられました。
トラックドライバーの1日の拘束時間は、原則として13時間以内に制限されます。
これは、労働時間と休憩時間を合わせた時間のことを指します。
この制限により、ドライバーの労働環境改善を図ることが目的です。
ただし、業務の必要性に応じて、1日の拘束時間を最大15時間まで延長できますが、14時間を超える延長は週2回までに制限されています。
宿泊が必要な場合は16時間まで可能ですが、週2回が限度です。
運送事業者は、この制限を踏まえて配送計画を見直し、効率的な運行を行う必要があります。
これらの制限に対応するため、運送事業者は労働時間管理の徹底や荷主企業との協力による配送の最適化に取り組むことが求められています。
3-3休 息時間の延長
今回の労働時間規制により、トラックドライバーの休息時間も延長されました。
具体的には、1日の拘束時間が終わった後、次の勤務までに連続して11時間以上の休息を取ることが原則となります。
この規制は、長時間労働を抑制し、運転者の安全確保と労働環境の改善を図ることが目的です。
ただし、宿泊を伴う長距離運転の場合には、1週間に最大2回、継続8時間以上の休息時間に短縮する特例が認められています。
その場合は、勤務終了後に12時間以上の休息を取らなければなりません。
4.2024年問題による運送業界への影響
2024年問題は、運送業界に大きな影響をもたらすと言われています。
働き方改革関連法による労働時間規制により、トラックドライバーの労働環境は改善される一方で、輸送能力の低下や運賃の上昇など、さまざまな課題が予想されるからです。
これらの影響は、運送事業者だけでなく、荷主企業や一般消費者にも及ぶ可能性があります。
4-1人手不足の深刻化と事業継続への懸念
2024年問題により、トラックドライバーの人手不足が深刻化し、運送業界の事業継続が危ぶまれています。
● 配送能力の低下
人手不足により、トラックの運転手が足りなくなり、配送便数を減らさざるを得ない状況に陥ります。
これにより運べる荷物の量が減少し、荷主の要望に十分に応えられなくなり、取引継続が困難になるケースも出てきます。
● 既存社員への負担
人手不足は、残りのドライバーに大きな負担をかけることになります。
長時間労働や、担当する配送ルートの増加など、働き方の負担が増大し、精神的なストレスも蓄積されていきます。この状況が続けば、既存のドライバーの離職を招き、 さらに人手不足が深刻化する悪循環に陥りかねません。
● サービス品質の低下
人手不足により、配送の遅延や、配送ミスといったサービス品質の低下が懸念されます。 顧客からのクレームが増加し、企業のイメージダウンや顧客の離脱につながる可能性も否定できません。 特に、食品や医薬品など、時間厳守が求められる貨物輸送においては、サービス品質の低下は深刻な問題となります。
4-2 運 送コストの上昇と企業収益への影響
トラック2024年問題により、運送事業者はさまざまなコスト増加に直面しています。
まず、必要人員の増加が企業の負担となります。
人手不足を補うために従業員を増やす必要があり、基本給の引き上げや、残業代の50%増(月60時間超)による人件費の増加、さらに社会保険料の増加も考慮する必要があります。
これにより、固定費の大幅な上昇が避けられません。
次に、車輛関連費用の増加も課題です。燃料費の高騰や車両維持費の上昇は、事業者にとって大きな負担となり、変動費が増加します。
さらに、運送効率の低下も収益に大きな影響を及ぼす原因の一つです。
労働時間規制によってトラックの稼働時間が短縮され、加えて荷役作業や荷待ち時間の増加による機会損失や、空車での回送が増えることもあります。
これにより、企業の売上高が減少し、利益を圧迫することが予想されます。
4-3中小運送業者が直面する経営課題
2024年問題により、中小運送業者は多くの経営課題に直面しています。
● 資金力の限界
人手不足を解消するために、新しいドライバーを採用しようとすると、採用活動に費用がかかります。
また、車両の更新や増車も必要となり、資金面の負担が大きくなります。
中小企業は、大企業に比べて資金力に乏しいため、これらの費用を捻出することが難しいのが現状です。
● 人材確保の構造的問題
トラックドライバーの仕事は、長時間労働や体力的な負担が大きいというイメージが根強く、若者の間での人気が低迷しています。
そのため、新しいドライバーの採用が難しく、高齢化によるドライバーの自然減と合わせて、人手不足が深刻化しています。
● 既存取引先との関係
運送コストの上昇により、既存の取引先に対して運賃の値上げを交渉する必要があります。
しかし、取引先によっては、コスト上昇分の負担を認めず、無理な要望を突きつけてくるケースも考えられます。 また、契約条件の見直し交渉も難しく、取引先を変更することも容易ではありません。
5.2024年問題解決に向けて企業がやるべきこと
2024年問題に対応するため、運送事業者はさまざまな取り組みを行う必要があります。
労働環境の改善や業務効率化、新技術の導入など、多角的なアプローチが求められます。
また、荷主企業との協力も不可欠です。
ここでは、2024年問題を解決するため、企業が取り組むべきことについて、具体的な対策を交えて解説していきます。
5-1財 務面での対応策
2024年問題により、運送業界は人件費の上昇や、車両の維持費増加など、さまざまなコスト増加に直面しています。
中小企業を中心に資金繰りが悪化し、経営が厳しくなるケースも少なくありません。
そのような中、資金調達手段の一つとして注目されているのが「トラックリースバック」です。
これは、所有しているトラックをリース会社に売却し、その売却代金の一部を運転資金として受け取る仕組みです。
その後、売却したトラックをリース契約により再び利用できます。
トラックリースバックには以下のメリットがあります。
● 運転資金の確保:売却代金の一部を運転資金に充てることで、人件費や燃料費などの増加に対応できる
● 財務体質の改善:固定資産であるトラックを売却し、負債を減らすことで、企業の財務状況を健全化できる
● リース料金の負担を軽減:車両使用年数に合わせてリース期間を延ばすことで、リース料金の負担を軽減
PMGLogisticsはトラックリースバックのサービスを提供しています。
同社は、PMGおよびPMGPartnersとグループ会社であり、財務改善のための総合的なコンサルティングやファクタリングも提供可能です。
お客様の経営状況に合わせて、最適な資金調達・財務改善プランをご提案することで、2024年問題に直面している運送事業者の経営を支援します。
5-2労 働環境改善と人材定着
トラック2024年問題に対応するため、運送業界では労働環境の改善が急務です。
運送事業者は、ドライバーの労働条件を整え、人材定着を図ることで、慢性的な人手不足に対応する必要があります。
● 労働条件の整備
労働条件を整備するためには、長時間労働の是正、残業代の適正な支払い、休日・休暇の確保などが不可欠です。 これらの取り組みは、ドライバーの働きがいを高め、働きやすい環境づくりにつながります。また賃金を引き上げることも、人材確保と定着に効果的です。
● 既存社員の定着強化
既存のドライバーの定着を図るためにも、さまざまな取り組みが考えられます。例えば、キャリアアップの機会を提供したり、 福利厚生を充実させたりすることで、従業員満足度を高めることが重要です。また、定期的な面談を実施し、個々のドライバーの声に耳を傾けることも効果的です。
● 働き方の見直し
業務の効率化や配送ルートの最適化、荷主企業との協力による荷待ち時間の削減など、働き方そのものを見直すことも効果があります。 これにより、労働時間の削減と生産性の向上を同時に実現できる可能性があります。
5-3適 正運賃・料金収受の実現に向けた対策
2024年問題に対応するため、運送事業者は適正な運賃・料金の収受を実現する必要があります。
この対策として、原価計算に基づく運賃設定と取引条件の見直し交渉が挙げられます。
● 原価計算に基づく運賃設定
運賃設定の際に、人件費、燃料費、車両維持費など、全ての経費を正確に把握するための「原価計算」を行うことが重要です。 特に、2024年問題で大きく変動した人件費については、正確に算出し、運賃に反映させる必要があります。 次に、企業が存続し、成長するために必要な「適正利益」を算出します。適正利益の確保は、事業の継続性と従業員の生活の安定を図るために欠かせません。
● 取引条件の見直し交渉
これまでの取引条件を見直し、運賃の値上げ交渉を行うことが必要です。取引先に対して、運送コストの上昇を説明し、理解を求めましょう。交渉の際には、自社の原価計算に基づいたデータを示すことで、説得力が増します。
段階的な改善提案も有効です。
いきなり大幅な値上げを要求するのではなく、まずは一部の取引から値上げ交渉を行い、徐々に全ての取引に適用していくという方法も考えられます。
6.よくある質問(FAQ)
トラック2024年問題に関するよくある質問にお答えします。
ここでは、2024年問題についての具体的な疑問や対策を解説していきます。
6-1運送会社は規模に関係なく規制対象ですか?
2024年問題で施行された労働時間に関する規制は、運送会社の規模に関わらず適用されます。
大企業も中小企業も、全ての運送事業者が対象となります。
これは、労働者の健康を守るという観点から、企業規模に関わらず一律に規制が適用されるためです。
6-2規 制違反した場合のペナルティはありますか?
規制に違反した場合にはペナルティが課されます。
労働基準法に基づき、運送会社が労働時間規制(960時間の上限)を守らなかった場合、罰金や改善命令が科されることがあります。
具体的には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
運送会社は、規制を守りながら、効率的な物流を実現する取り組みが必要です。
6-3規 制への対応について、国の支援策はありますか?
2024年問題に対する規制への対応として、国土交通省と厚生労働省が運送事業者向けの支援策を提供しています。
国土交通省は輸送業務の効率化や労働環境改善に向けた助成金を通じて、トラックドライバーの労働時間規制への対応を支援しています。
また、厚生労働省は、働き方改革の一環として、労働時間の短縮や長時間労働の削減に取り組む事業者向けの助成金や制度を用意しています。
これにより、運送事業者が規制に対応しやすくなるだけでなく、トラックドライバー不足の課題に対処するための体制強化も図られています。
7.まとめ
トラック2024年問題は、運送事業者や荷主に大きな影響を与える規制です。
これに対応するため、事業者は労働環境の見直しや効率的な配送方法の導入を進める必要があります。
さらに、運送運賃の見直しや荷物の輸送効率化も必須となるでしょう。
全日本トラック協会によると、この規制への対応は、業界全体の課題であり、実態調査を通じて現状把握と対策立案を進めています。
また、告示された時間外労働時間の上限である月80時間、年間960時間を遵守するため、業界全体で取り組みを強化しています。
一方で、国の支援策や補助金を利用することで、規制への対応を実現しやすくすることが可能です。
企業は早急に対策に取り組み、協力しながら物流業界の未来を考えることが求められています。
2024年問題は、運送業界に大きな変革をもたらす契機となるでしょう。
効率的な積載方法の開発やデジタル技術の活用など、新たな取り組みが進むことで、より持続可能な物流システムの構築につながることが期待されます。